故郷を離れて既に40年 東京・武蔵野の水辺を中心とした身近な風景と駄文を発信します

団塊の世代

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かぐや姫.jpg

親父が死ぬ。

10日程前、「親父が出血して倒れた」との電話が実家から有った。
胃潰瘍での出血だったが取りあえずの処置で今は小康状態。しかし再度の出血で何時どうなるか分からない。
90歳だから死ぬにしても歳に不足は無いし、私としても親父の死そのものにそれ程の感慨は無い。薄情な息子だ。今は親を送る初めての葬儀の方に頭が行っている程度。

親父の死は死として、改めて世代について考えてみた。

 

私は団塊の世代です。

若い世代の人たちからの反発を覚悟で敢えて言えば、私たちの世代は多分日本の歴史でも一番恵まれた、運のいい世代だったと思っている。

 

親父たちの世代は青春を戦争の中でまともな民主主義も無いまま、文字通り生きるか死ぬかの瀬戸際を過ごしてきた。
農地解放前の百姓の多くは我が家と同じく小作農の水のみ百姓だったし、逆に町場の人たちは空襲で焼かれ、戦後の食糧不足とその買い出しの苦労が語り草になっている。

その廃墟の日本をここまで立ち上げて来た中心は、間違いなく親の世代だったが、彼らは今、後期高齢者などと言われ、医療からも差別され突き放されている。
自分たちが親にして来たように、子供(つまり私たちだが)に老後の面倒を見て貰うなんてことさえ、期待出来ないケースも多い。我が家も兄がこのザマだ。
いい悪いは別として、戦前の家父長制度を否定した戦後民主主義でさえも、親の世代からすれば、その割りを食っている部分は有る。

私たちも子供のころは貧しくてつぎはぎだらけの着たきり雀だったし、食うものだってろくなものが無い時期が、有るには有った。
それでも回りも概ね似たようなものだったし、その後の高度経済成長の恩恵を、人生の真ん中で享受してきた。

真面目にさえやっていれば働き口が無いと言うこともまあ無かったし、正社員が当たり前と言う、今思えばよだれの出るような、正に当たり前の時代を生きてきた。ワーキングプア等と言う言葉も無く、気分はいつも「総中流時代」だった。
借金のつけを後に残しながら年金も何とか受け取れそうだ。

民主主義を空気のように普通に受け止めた最初の世代だし、恋人や夫を戦争に取られるなんてことも無かった。しようと思えば離婚も至って気軽に出来る。
若い時の貧乏や、今でも続く葛藤・悩みが無かった訳では勿論ないが、その葛藤やコンプレックスにしても全く無いよりは有った方が人間の幅を作ると、今は思えるし。子供の頃の貧しさを酒の肴にして盛り上がることもできる。

 

戦争とその後の民主化・高度成長と言う特殊事情が、親と我々の世代の間に横たわり、世代間の「恵まれ度」に決定的な影響を与えたとして、しかしそれが無かっ たとしても本来、親の世代より子供の世代が恵まれた時代に生きるのは、生産力の発達から来る言わば歴史の普遍で、そのことに何の問題も無い。
子供の幸福は親の幸福であり、子供たちが自分より幸福であることを、嫉妬する親はいない筈だから。

 

親の世代より貧しい人生

問題は我々の子供世代が、或いは孫の世代が、その当然の歴史的経過を辿れていない様に見えることだ。

「失われた10年」が既に10年を遥かに超えて今でも続いている。その為子供の世代ばかりか孫達の世代まで就職難に苦しんでいる。内定を貰う為に大学生は駆けずり回り、それが叶わない者は、或いは幸いに就職しても、成果主義など競争の中で少なくない者が脱落し、非正規に流れる。
2011年現在の統計で、非正規雇用比率が、男20.1%、女54.6%と過去最高を更新している。これは統計に出ているだけだから実態はもっと悪い筈だし、若年層だけ取って見れば更に割合は上がる。

国・地方合わせて1000兆円に及ぶ借金は、将来の年金や暮らしを不安なものにする。国民年金の滞納が4人に1人の割合だと言うが、これも若者世代だけに限って見れば半分近いんじゃないだろうか。
特別な戦乱や飢饉の時代を除き、「親の世代より貧しい人生」を送る最初の世代になるかも知れない。これだけ物が有り余っていると言うのに。

温暖化だのなんだのと、地球もやばくなって来ているし。挙句に原発事故で子育てにも深刻な不安が付きまとう。未来に生きる世代がその未来に、自分ではどうすることも出来ない漠然とした先行き不安を抱える。

子供の、或いは孫の不幸や不安は、そのまま親や祖父母の不幸・不安でも有る。
どうしたらいいのだろう?

 

団塊の世代、怨嗟論

世の中が行き詰まりや閉そく感漂う時、そのはけ口としてどこからか、必ず持ち込まれるモノとして「対立」「分裂主義」「仮想敵」が有る。

民間で非正規雇用が蔓延してくると、「公務員バッシング」が持ち込まれ、大阪の橋下某辺りが持て囃されたり、同じく多くがワーキングプアに呻吟する時「生活保護不正受給批判」がマスコミを賑わす。

問題の本質は、公務員の待遇が良くなった訳では無く、民間の雇用環境が劣化したのであり、その劣悪な就職環境の下、生活保護申請が急増しているのであり、働いても生活保護レベルにさえ届かない最低賃金や不安定雇用に有るのだが、そこから目を反らせお互いに反目させる意図を持って、この分裂主義が持ち込まれる。

アメリカでも韓国でも、そして中国でも日本でも、政変が有る時には大体、ナショナリズムが台頭し、「外敵」に国民の目を向けさせる。
自民党の5人の総裁候補が揃って勇ましい主張をし、中で一番右翼的な安倍晋三が選出された。長くは持たないと思うけれども。
今深刻に世情を騒がせている領土問題にしても、双方そう云う政治的思惑が無いとは言えないだろう。

非正規雇用やワーキングプア、結婚難、将来不安にモロ晒されている若者世代の中で、時として「団塊の世代怨嗟論」が叫ばれる時が有る。その気持ちは良く分かる。
当の団塊の世代として言うには、やや自己弁護に聞こえるかもしれないが、やはり団塊の世代を一括りにしてのそれは、意図的な「対立・分裂主義」の持ち込みに他ならないとは思う。

ホントーにこのままじゃ………、

しかし本当に今、若者世代(それと特にシングルマザーと)の雇用環境改善は焦眉の課題だ。金銭の問題だけでなくその人の尊厳とアイデンティティに係わる。

若者の自殺が急増している。それはそうだろう。何十社も或いは百を超える面接を受けて、それも圧迫面接も含めてことごとく不採用と言われたら、初めて社会に立ち向かった若者に取って、自分が社会に必要とされていないと自己否定に陥っても不思議ではない。

しかし実は問題はこれら若者や女性だけじゃない。当の企業にとってもこの状況は大きな墓穴なのだ。
派遣やアルバイトの使い捨て労働で、企業への帰属意識や士気(モラール)、忠誠心(ロイヤリティ)が育つ筈が無い。企業が労働者を使い捨てにするならば、働く人も企業を使い捨てにする。
内部告発で窮地に陥る企業や担当者が相次いでいるが、いい悪いは別として昔こんなことは無かった。

一番の問題は技術やノウハウの継承だろう。
かって圧倒的な優位を誇っていた日本のモノづくりの地位が、今徐々にしかし確実に低下している。
目先のコストだけの理由で、長期的な人材の育成・継承を放棄し、モノづくりの中心を担ってきた大田区や東大阪市の中小企業を、下請叩きで痛めつけて来たそのつけが、今回ってきている。
更に言えば賃金や下請け単価の抑制は内需を細くし、安定的な販路を閉ざす。猫も杓子も中国に売り込みを掛けるが、彼の地は必ずしも政情安定ではない。

非正規雇用やリストラを止めさせるのに、一つの企業や経営者の良心に期待することは出来ない。そんな企業は競争に負けてしまうし、経営者は株主総会で罷免されてしまう。ことは個々の企業や経営者の心がけの問題じゃないのだ。
結局政治が、全体に枠を掛けて規制するしかないのだが、小泉・竹中構造改革に見られるように、流れは逆の新自由主義へイケイケドンドンだ。
30年も前、ソニーの創業者の一人、盛田 昭夫氏が憂慮した事態が、当時を遥かに超えて進行している。今こう云う見識と矜持を持った企業人は見当たらない。ソニー自体、今リストラの先頭を切っている。


経団連のトップなら本来は自分の企業や業種の枠を超えて、或いは目先の利益を超えて長期的なビジョンを示すべきなのに、二代、三代続いて近視眼的俗物ばかり。

………と、ついつい愚痴が出てしまったが、兎も角このまま新自由主義の「自己責任論」で突き放して行くと、本当に若者の中に、団塊の世代怨嗟論が中身を持って台頭してくるかもしれない。

 

追記、NHKのノー天気報道に呆れかえる

10月3日(水)、夕方のNHK番組『首都圏ネット』で、非正規雇用の青年2人を登場させ「非正規だから出来ること」と題して放映していた。
非正規雇用の実態を全体として、正面から捉えた番組では無く、その一面の、新聞で言えばコラム的報道であるにしても、この、能天気な、そうでなければ意図的で露骨な非正規容認押しつけのタイトルと番組姿勢に呆れかえる。

指摘することは2つある。

  1. 番組の論旨は要するに、非正規雇用は収入が少なく生活は厳しいが、その代わり時間に制約されない。仕事以外にやりたいことを持っている時、それを充実させることが出来る。と言うものだった。
    この論旨自体、使い古され、手あかのついた「非正規正当化論」の焼き直しに過ぎないが、そもそもこの論理自体、本当だろうか?

    仕事以外に様々な「やりたいこと」を楽しみ充実させているのは、現実には非正規雇用では無く、給与も雇用条件も安定し、そこに安心して立脚出来て趣味や余技に目を向ける余裕を持った正社員では無いのか。
    軍医と言う「正規」の仕事を持ちながら、文豪としても名を馳せた森鴎外を持ち出すまでも無く、世の中を普通に見る目を持っているなら、このことは直ぐに分かる。

    多くの非正規の若者やシングルマザーは、「やりたいこと」に目を向ける余裕も無く、日々の生活に追われているのが、大方の現状では無いのか。それがNHK自身、何度も特集を組んだことの有る「ワーキングプア」で表現される実態じゃないのか。
    現にこの放送に出ていた人も非正規故の将来不安を訴え、このまま「やりたいこと」がやれるかどうか不安がっていた。
     
  2. 番組の後半で、非正規で働いている人へのアンケート調査結果が出されていた。
    この中で、現在の非正規から正社員への変更を望まない人の割合が半分近くを占めていたそうだ。

    冗談言っちゃ困る。こんな結果を得々と、何のクレジットも無く垂れ流す神経が知れない。
    若し、派遣なりアルバイトなりの当該企業から、正社員か引き続きの非正規雇用かの選択が提示されたとして、正社員への道を選ばない人がどれほどいるか?
    時間の制約などを理由に、それを断る人など殆ど皆無だろう。

    現実は正規雇用への道など、望んでもその可能性は限りなくゼロだと知り尽くしているのだ。そもそも最初から望んで非正規になったのではなく、正社員を目指しながらそれしか選択肢が無かったケースが大半で有り、今更そんな質問自体絵空事にすぎないことを誰よりも知っている人たちなのだ。

    「人は解決への道がほの見えている時だけ、問題を立てる」、こんな意味の言葉が有ったが、実現可能性が限りなく低い時、そもそもそれを課題に上せないだけのことで、上記アンケートの調査結果は、自分を惨めにしたくない自己防衛なのだろう。
    気持ちの上での慰めや代償を与えるのでなく、現実に「解決への道」を指し示すことこそ、政治やマスコミの務めだろう。

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コメント(3)

最初の方の文章へ。
葬儀、というより死事〈シンゴト〉か、大変だろうな。うちの親も80半ば過ぎだし・・・。昔よく聞いた。「今日はしんごとだ」。知らない人は「仕事」と思うかも。でもまあ「仕事」のような面もある。

シンゴトは正に大仕事だな。
昔はみな自宅でやっていた。巻・親類、隣組、五人組など、それぞれ総掛りで。

特に御斎(おとき)の料理作りは一つの文化だったな。
家にいた頃、他人の葬式のお手伝いをした時には「この伝統は残さなければ」なんて思ったものだが、いざ自分の段になるととてもそんなことは言っていられなくなってしまった。
親父の葬式は葬祭センター任せにするしかないな、と兄弟たちと話し合ってきた次第。

実はこの葬式ごっつぉについて、機会が有ったら書いてみようと思っていた。
そのうちに。

色々と大変だな! 親父さん、出来る限り大切にしてやってくれ!

俺の親父も胃癌だった。
六日町の病院で、俺は最後を看取る事は出来なかったが夏休みに見舞いで行った時、病室の外まで聞こえる苦痛の声。
やるせなかったなあ!
そんな親父が、俺の顔を見たら痛みなど無いかの様に振舞って居たのがかえって痛々しかった。
その時親父の細くなった右腕につけて居たのが、一緒に上野の「東天紅」へ行ったあの時俺が贈った腕時計だったと
聞かされたのは親父の葬儀の時だった。

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