【山寺】(新説セミ談義)

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今回の話題は 「奥の細道」 から、

 

 【山寺 (立石寺) 】

  松尾芭蕉が「奥の細道」で名句を詠んで、今では知らぬ人が居ない程の、東北の名刹になった【宝珠山
  阿所川院立石寺(ほうじゅさんあそかわいんりっしゃくじ)】、 略して 【宝珠山・立石寺】、 又は通
  称 【山寺】 と言う。

       「閑さや 岩にしみ入る蝉の声」

あまりにも有名なこの、芭蕉の名句を知らない人は少ないだろう。
しかし、奥の細道の道程の予定外コースだった事を知る人は、意外に少ない。 つまり、芭蕉は平泉・中尊寺を出てから山形県の尾花沢へ来る迄は、そこから新庄へ出て 出羽三山 (羽黒山・月山・湯殿山) を巡って日本海側の酒田へ出る予定だったと言われている。

元禄2年(1689年)旧暦(陰暦)で5月17日~26日迄、尾花沢での地元の俳人達との句会や 俳句指導など の交流で滞在中に【山寺】の存在を知らされ、その見分を薦められ急きょ立ち寄ったのだが、調べてみると芭蕉としては山寺に付く迄は「皆がそんなに言うなら、ちょっと覗いて見ようか」程度に考えて居たらしい日程計画がかい間見える。 そして、その日程の誤算が芭蕉を山寺の宿坊に泊らせるハプニングを生み、これが後世に残る名句を読む動機になったのでは無いかと思う。

芭蕉自身も、思い付きでちょいと立ち寄った先で詠んだ一句がまさか、「自身で詠んだ俳句の中でも屈指の秀作として後世に評価」される事になるとは、思っても居なかったものと思う。

その【山寺】とは、以下の写真の様に自然の岩場を利用した修験道場的仏閣で、本尊は薬師如来とされている。

 

   ♦ 清水寺の舞台のミニ版を連想させる建物が、「五大堂」
       写真は 「紅葉には少し早い10月上旬」、「五大堂」右下の建物が「開山堂」と「納経堂」
山寺 - 1017 -  001.JPG

   ♦ 五大堂の反対、右側にある釈迦堂(岩の上の建物)・・危険な為非公開
山寺 - 1017 -  002.JPG

   ♦ 「芭蕉記念館/後藤美術館」 側から見た【山寺】全景と、手前は「芭蕉堂(茶室)」
山寺 - 1017 -  003.JPG

芭蕉が来た当時は勿論こんな施設も無いし、恐らく此方からの風景は芭蕉も見る事は無かったものと思うが、山寺へ行ったら素通りするのはもったいない眺めだと思う。(勿論食事何処などもある)

芭蕉も見たであろう、五大堂からの眺めは以下の通り。(勿論、写真は現在のもの)

   ♦ 「山寺駅」 から 「立石寺参道」(手前) 方向
五大堂からの眺め2.JPG

   ♦ 「芭蕉記念館/後藤美術館」 方向 ・・・ 春は桜が素晴らしい
五大堂からの眺め1.JPG

   ♦ 開山堂入口の説明書き・・・開山堂の横から五大堂に登る事が出来る
五大堂案内板.JPG
 

 

話を「奥の細道」に戻しましょう。

   ♦ JR仙山線で来たとして、「山寺」の駅から参道に沿って歩いて来ると、立石寺入口がある
山寺駅からの参道.jpg

   ♦ 「立石寺」へはこゝ、登山口から入門するのが一般的
立石寺入口.JPG

   ♦ 登山口を入って左に少し行った所に「芭蕉像」と「句碑」がある (山門階段が始まる手前)
山寺・芭蕉像1.jpg

   ♦ 春まだ浅い季節、いち早く参道・石段の両脇を飾るのはシャガの葉と、
             そして麓から咲き登る清楚な花々、急がずゆっくりとのぼりましょう
yamadera.jpg

 

さて、 【山寺】 の主要イメージは描いて頂けたと思いますが、こゝで少し 「奥の細道」 から松尾芭蕉達の来た時の動向を追って見たい。

 

山寺巡礼と名句の背景

尾花沢で 【山寺】 の事を聞かされ急きょ予定を変更して周る事にした 「 松尾芭蕉と曽良 」 は旧暦5月27日、現在の新暦では7月13日朝(以降は新暦表示とします) 辰の中刻・尾花沢を出発し、未の下刻・山寺に到着した。 その後、寺の宿坊に荷物を置いて山寺を巡礼(見学)して周った結果、当初予定の山形迄(約3里)行く予定だったが、中止して山寺の宿坊に一泊する。

そして読まれた名句の≪原句≫がこれ、

  ≪原句≫            【山寺や 石にしみつく 蝉の声】
 

翌日は山寺から来た道を引き返して、途中から大石田の最上川・舟下りの乗船場へ向かって居る。

また、翌7月14日、「山寺」を発った芭蕉一行は約11里(約44km)の行程を「大石田」迄行き、7月14日~17日迄上流の豪雨で増水した最上川の舟待ちをしながら開いた句会でもう一つの名句が生まれる。その≪原句≫がこれ、

  ≪原句≫            【五月雨を 集めて涼し 最上川】
   

「ん! 何か違うんじゃないの ・・・・・?」 ってお気付きの方、さすが通ですね。 「芭蕉翁」程の俳人と言えど、一発で満足出来る句を詠みだす事は難しかった様ですね。

同行者「曽良」の記録によれば、【山寺】で詠んだ句 は大石田で舟待ちして居る時に推敲を重ね、下記最終形の句が完成。

  ≪推敲後≫             【閑しさや 岩にしみ入る 蝉の声】
 

「五月雨を・・・・」 の句 は、7月19日、新庄~羽黒山への途中、清川迄への舟下りの船上で最終形になったとされている。

  ≪推敲後≫             【五月雨を 集めて早し 最上川】

 

山寺と「蝉」論争

昭和初期、山形県出身の歌人・斉藤茂吉と国文学者小宮豊隆との間で「芭蕉」が “岩にしみ入る” と詠んだ蝉が、「油蝉」とする斉藤と「ニイニイ蝉」とする小宮との間で激論となり翌年同時期現地で実証見分を行い、「ニイニイ蝉」 しか確認出来なかったとの事になり、斉藤側から詫びが入り、一件落着。

となったと言う話が有名だが、他にも色々な蝉を提唱する論議があるそうだ。

そこで、私なりに少し考えて見た。

まず、既存の蝉論争については一旦白紙に戻して頂いて、環境庁が掲示している「緑の国勢調査・’95 身近な生きもの調査」で蝉の初鳴き時期についてのデータ(抜粋)を見て頂きましょう。

蝉の鳴き始め時期 1.JPG

注目して欲しい事は鳴き始めの分布図、 図はミンミンゼミのデータでの分布であるが、ヒグラシとツクツクボウシもほゞ同じ分布との事。 (アブラゼミとニイニイゼミのデータは無かったが、体験的判断ではミンミンゼミより多少早くから鳴き始めるものと思う)
クマゼミについては、今回のテーマ【山寺】では無関係なので割愛しました。 (詳しくは、こちら、環境庁・当該ページ のリンクをご覧下さい)

分布図でお気付きの方も多いと思いますが、 以外な事に桜の様に 南からでは無く北海道が最も初鳴き時期が早く、関東・北陸・関西が最も遅い事 です。

これを見ると、芭蕉の参詣した7月13日と言う時期に、斉藤茂吉や小宮豊隆の様に単純にアブラゼミVSニイニイゼミと言う構図だけでは無く、ミンミンゼミやヒグラシの出番も十分に有り得るのでは無いかと思われる。

もう一度、芭蕉が参詣した時の状況を想定して見たい。

7月13日、尾花沢を 「 辰の中刻 」 に出発、山寺へは 「 未の下刻 」 に到着。   その後、宿坊に荷物を預けて山内巡礼に出掛けたと言う。 山寺の山内巡礼には例え旅慣れた芭蕉と曽良であっても、時間的に各お堂等の扉が閉まって居たとしても、最低1時間程度は必用だったものと考える。(一般用パンフレット等では、標準で約 90分と言われている)

そこで、「辰(たつ)の中刻」 ・ 「未(ひつじ)の下刻」 とは一体何時頃かと言うと、当時庶民は≪不定時法≫と言う「日の出から日暮れ迄と日暮れから日の出迄」をそれぞれ6等分して時間を決める方法で、時間を管理(表現)していた。
従って、春分・秋分には12等分すべて同じになるが、冬至と夏至には昼の1時間と夜の1時間との実際の長さが大きく違って来る事になる。

   ♦ 芭蕉が山寺に行った頃は夏至から22日目
不定時法.JPG

山寺の時刻は江戸よりおよそ20分位早くなる

従って、

 

「辰(たつ)の中刻」 とは

          早朝6時半~7時頃

 

「未(ひつじ)の下刻」  とは

          夕方15時半~16時頃

 

芭蕉が実際に山内巡礼を行った時間帯は、

      16時頃~19時頃迄 と推測される

 

☆ 果たして芭蕉が聞いた声のセミとは?

   先の分布図と、芭蕉が耳を傾ける可能性のある時間帯の相関関係をつなぎ合わせて行くと
   候補となるセミは多く無い。

   ♦ 日程から浮かぶ候補・・・・・・・・アブラゼミ、ニイニイゼミ、ヒグラシ、ミンミンゼミ

   ♦ 時間帯から見えて来る候補・・・・・ニイニイゼミ、ヒグラシ、(ミンミンゼミの可能性も?)

   ♦ 歌を詠む人の感性に響く音色・「岩にしみ入る」 に似合うセミは?

   と、考えて行くと、時間帯で一番コンスタントに鳴いている可能性がある事から、また、「岩にしみ
   入る」 と詠まれるに相応しい音色になるセミは、単体の鳴き声でも複数のヒグラシの合唱でも、他の
   種類のセミが混じっていたとしても、【ヒグラシ】 の声ならば 「岩にしみ入る」 の表現に最も 相応
   しいと思う。 
   そんな理由から、芭蕉の詠んだセミのイメージは【ヒグラシ】であろう、と、私は考えている。

 

現代と違い、コンビニも無く、町に街灯も無い時代、ミンミンゼミやアブラゼミは午後2時を過ぎれば殆んど鳴かなくなるだろうし、ニイニイゼミも、日が陰る頃になると鳴き止んで居た様に思う。
 (ミンミンゼミは結構気まぐれで・・・たまに日暮れ時、短時間鳴く個体も居る様だ)

反面、ヒグラシの場合は日が陰ってもかなり薄暗くなる迄鳴く習性があり、芭蕉の山寺巡礼の時間帯とピタリと重なる。

斉藤茂吉と小宮豊隆が現地検証をしたとの事だが、もしかしたら≪不定時法≫の解釈を間違えて、芭蕉達の山寺到着時間を午後2時~3時半頃として検証したとすれば、アブラゼミやミンミンゼミは鳴き止み、ニイニイゼミが一番盛んに鳴き、ヒグラシもまだ鳴かないと言う時間帯に当たった可能性が高い。

そんな事も各自で考えて見てはいかがですか? 山寺も、また違った発見があるかも知れませんね!

 

最後に、最上川の風景を!

   ♦ 舟下り (高速船)
最上川 1.JPG

最上川 2.JPG

   ♦ 白糸の滝 (羽黒山口、清川乗船場2~3km手前=上流左岸にある) 対岸レストハウスより
最上川 3 白糸の滝.JPG

    ♦ 「白糸の滝」繋がりで

         ① 浅間・鬼押し出し近くの 「白糸の滝」  ・・・・ 雄 page 当該ぺージへリンク

         ② 富士山・富士宮の 「白糸の滝」

2005.01.13-B 白糸の滝 006.JPG


 

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25年以上前の話だが、1時期毎月山形に出張していたことが有った。
7号線を北上し、鶴岡、酒田で仕事をし、最初の頃は最上川を遡って新庄から山形市に抜けていた。
しばらくして鶴岡から寒河江に抜ける月山新道と言う道が有ることが分かり、車を走らせてみたらこれが素晴らしく、その後はもっぱらこの道を走った。
今この道は山形自動車道になっているのかな。

山寺も3、4回行っている筈だがその頃は今ほどの思い入れも無く行っていた。
最上川も懐かしいなあ。Qの写真を見てビックリしたのは高速船。あの頃こんな船は無かった。

山形は色々思い出がいっぱいある。
Qのお陰でしばし、四半世紀前の思い出に浸ることが出来た。

俺も数年前、この写真を撮った時迄、こんな高速船が走って居るとは知らなかった。
あの時、真室川で仕事の日程が無かったらあれに乗って見たいとも思ったっけなあ!

そうそう、山形自動車道が全線開通する前は、確か月山自動車道と言ってたな。
春スキーで月山の姥沢へ入るのに俺も良く使ってた道だった。

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このページは、久が2013年8月 4日 11:05に書いたブログ記事です。

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